これから僕の本を読んでくれる人に

 これから僕の本を読んでくれる人に。


 もし、万が一だけだけど、僕の本に関心をもってくれる人がいたら、次のことを伝えたい。最初に、どれか一冊を読むとしたら、どの本を読むべきか。


 まあ、高校の現代文や大学入試を思えば、『<私>時代のデモクラシー』(岩波新書)かな。政治思想史を研究してきた人間が、現代社会をどう捉えるか。チャレンジして書いた本だ。けっこう小難しいことも書いているけど、じっくり読めば、おおよその主張はわかるはずだ。「私らしさ」とか「自分らしくあること」について考えたことのある人なら、考える材料になるはず。

〈私〉時代のデモクラシー (岩波新書)

〈私〉時代のデモクラシー (岩波新書)


 じゃあ、実際に何をすればいいのか。民主主義といってもねえ、と迷う人には、『民主主義のつくり方』(筑摩選書)。アメリカのプラグマティズムの影響を受けて書いた本だ。プラグマティズムとは、けっして結果が良ければそれでいい、という安易な思想ではない。見通しの悪い時代に、それでも自分のすぐ身近なところから、何かを始めたいという人に奨めたい本だ。

民主主義のつくり方 (筑摩選書)

民主主義のつくり方 (筑摩選書)


 もし、そこから、じっくり西洋政治思想史を学びたいと思ってくれたなら、ぜひ読んで欲しいのが、『西洋政治思想史』(有斐閣アルマ)。自分でいうのも何だけど、いまどき、一人の人間が書いた通史は珍しい。過去のすごい思想家たちが、何を考えてきたのか。僕らが受け継ぐとすれば、何なのか。きっと前に進むための材料を与えてくれるはずだ。

西洋政治思想史 (有斐閣アルマ)

西洋政治思想史 (有斐閣アルマ)


 さて、問題はその次だな。じっくり政治思想史とか政治哲学を学びたいという人に、何を奨めるか。やはり、僕はトクヴィル研究者なので、トクヴィルという思想家について知ってもらいたい。僕はこの人が、とても好きだ。まじめで、繊細で、迷いながらも、今の僕らがはっとすることを書く。伝記的事実を含め、とっつきやすいのは『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社選書メチエ)。

トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社選書メチエ)

トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社選書メチエ)


 政治理論ということで、もっと踏み込んでトクヴィルを考えたいという人には、『デモクラシーを生きる』(創文社)。けっして読みやすい本ではないけど、僕が最初に書いた出発の作品。読んでもらえたら、うれしい。


 さて、僕はフランスの現代政治哲学に関心がある。フランスといえば、フーコーデリダを思い浮かべる人が多いかもしれないけど、フランスで、今一番面白いのは政治哲学。たぶん、みんな知らない理論家がたくさん出て来る本だけど、『政治哲学へー現代フランスとの対話』(東大出版会)は、フランス政治哲学の今を知るためには、絶好の一冊だと思う。



 その後、僕はトクヴィルやら政治哲学やらを考えつつ、現代日本社会の方に、関心が移っていった気がする。公共性や「政治的なもの」から、人と人のつながり、格差や労働、そして「社会的なもの」へ。そんな僕の、一番の理論的関心の推移を示すのが、近著『政治哲学的考察ーリベラルとソーシャルの間』(岩波書店)。まあ、論文集だから、けっして読みやすい本ではない。でも、僕が一番、真剣勝負した論文を集めたものだ。そこから何かを汲み取ってくれる読者がいたら、とてもうれしい。


 最後に間もなく出る『保守主義とは何か』(中公新書)。これはまさに、僕が現代日本社会に向けて投げかける「問題提起の書」だ。いま、世の中にあふれる保守主義は本当に保守主義なのか。もし仮に、保守主義という知的遺産があるとすれば、それは何か。誰もが入りやすいテーマとは思わないけど、「何かを守っていきたい」と思う人に読んで欲しい一冊だ。