山本昌投手引退

 まあ、ある意味ではどうでもいい話であり、ある意味では大切な話である。そう、中日ドラゴンズ山本昌投手の引退である。


 僕は、この人というと、まず思い出すのは、これまでも何回か触れたが、沖縄キャンプでの話である。もうだいぶ前になるが、実に物好きにも、家族一緒でドラゴンズのキャンプを見に行ったことがある。一軍キャンプ地である北谷のホテルに陣取り、二軍のキャンプ地である読谷にも出かけた。


 ベテランの山本昌は、マイペース調整ということで、読谷スタートということが多かった。というわけで、当時、まだ小さかった長男をドラゴンズ・ファンに洗脳し、二人で読谷に出かけたことがあった。二軍キャンプ地となると、ファンの数も少ない。グラウンドのすぐ脇で、山本昌がキャッチボールする姿をあきずに息子と眺めたことを思い出す。


 プロ野球選手のキャッチボールは美しい。ボールがすーっと、弧を描き、ポンと相手のグローブに入る。70メートル、80エートルになっても変わらない。すーっとボールが伸びて、きれいに相手のグローブに収まる。「美しいなあ」と思って、ずうっと眺めていたのを思い出す。いや、わが人生においても、ベストといって過言でない幸福な時間であった。


 その山本昌投手が引退とのことである。もう一度、読谷でキャッチボールを見たかったな、という思いは否定できない。でも、人間、引き際というのは重要だと思う。ここ数年、山本昌はほぼ「記録要員」であり、「戦力」ではなかった。もう一年、現役を続ければ、「最高齢」記録は更新できるかもしれないが、それは記録のための記録かもしれない。


 山本昌レベルの投手になれば、進退は自分で決めるものだろう。「まだ、やれる」、でももはや自分は「戦力」ではない。考えたあげくの決断を、僕は支持したい。いや、さびしいけど。