『日本文学史序説』

 加藤周一さんといえば主著は何になるのだろうか。雑種文化論に始まり、20世紀論に至るまで、加藤さんは時事的な文化論をたくさん書いてきた。『夕陽妄語』もいつか文庫版で出て欲しいものだ。


 『羊の歌』も忘れがたい。でもやはり『日本文学史序説』こそが主著と呼ぶにふさわしいだろう。


 この本は狭い意味の文学史ではない。文学にこそ、日本の各時代における思想がもっともよく表現されると考えた加藤さんにとって、この本はまさに日本思想史、日本社会史の本であった。


 文学論と社会論とを結合した独自のスタイルで日本の歴史を語り切ってみせる力業に、はじめて読んだとき衝撃を受けた(しかも、それが「序説」だという)。いまはちくま学芸文庫で容易に手に入るが、前の本を図書館から借りだして読んだのを思い出す。


 少し時間ができたら、この本をもう一度読み直してみたい。