折り返し

 村上春樹の短編に「プールサイド」という小説がある。その書き出しはこうだ。「35歳になった春、彼は自分が既に人生の折り返し点を曲がってしまったことを確認した」。


 小説はこう続く。「いや、これは正確な表現ではない。正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折り返し点を曲がろうと決意した、ということになるだろう」。


 小説の続きは省略する。変な小説だ。小説のテーマは、人生の後半にさしかかった人間の感慨や、求められる成熟、とはちょっと違う。


 ただ、その感覚はなんとなくわからなくはない。僕の感覚では、40歳になったとき、自分が既に人生の折り返し点を曲がってしまったことを確認した、というところだろう。


 もっとも、自分がはたして、40歳にして、人生の折り返し点を曲がろうと決意した、と言えるのかは、どうもよくわからない。