宋詩とサイード

 なんとなく気分が鬱屈。そんなときには、と、往き道の電車の中では吉川幸次郎『宋詩概説』(岩波文庫)を読む。「宋人の詩を通観して、まず感ぜられるのは、悲哀の詩が少ないことである。あるいは悲哀を歌っても、なにがしかの希望を残す。絶望ではない。宋人の多角的な目は、人生は悲哀の部分だけではないことを、はっきりと感ずるに至ったのである。哲学によって、それをたしかめたばあいは、信念ともなる」。いいではないか。


 帰り道。エドワード・サイードの『人文学と批評の使命』を読む。竹内洋が『丸山眞男の時代』で意地悪く分析したように、政治思想史という分野は一般に法学部の政治学に属しつつ、他方で文学部的な人文学にもっとも近い。それがかつてこの分野が持った強みであり、現在の弱みでもある。その意味で、人文学とデモクラシーを結びつけようとするサイードの姿勢に魅力を感じる。いいではないか。