最後のシーズン

 連休ということで、久しぶりに長男の野球の試合を見に行く。ここのところすっかりご無沙汰だったので、お母さんの一人に「あら、久しぶりですね」と大きな声で呼びかけられ、注目を集めてしまう。試合中だったので恥ずかしい。まあ、それくらいご無沙汰だったということだ。元球拾いコーチとしては、ちょっと後ろめたさを感じる。


 試合は長男のチームが優勢に進める。徹底して固い守備でピンチをしのぎ、わずかなチャンスをバントと走塁で拡大していく。絵に描いたように「そつのないチーム」である。ぽろりぽろりとやって、緊張するとお手玉をしていた昔の面影はない。すっかり少年らしく、たくましくなった子どもたちの姿に驚いた。もう彼らも6年生、トップチームなのだから、当然なのだろうけど。


 ところが、魔が差す瞬間というのはあるものだ。試合も終盤、4−1というスコアで「これは勝ちだな」という油断があったのかもしれない。あれよあれよという間に塁がうまり、ヒットとエラーで大量失点。この回こそ必死に同点で止めたが、次の回、もはやぼうぜんとしてあせるばかりのチームに勝機はなかった。サヨナラ負けで試合終了。泣きじゃくる子どもたち、無口になるお父さんコーチたち、悄然とするお母さんたち。


 ここのところスタメンを外れ、試合後半の守備固めに回っていた長男は、試合出場の機会すらないままに、春の大会を終えることになった。しかも決定的な場面となったのが、彼のポジションだったセカンドのエラーだっただけに、ますます言葉少なくなる。帰りの車のなかで「俺だったら、とれたけどな」とポツリ。


 でもね、君たちはいろんなことを学んだじゃないか。気を抜いた瞬間、するりと逃げてしまう勝負の女神。ここというときに、出てこなくなる声。地に着かなくなった足を、もう一度落ち着けることの難しさ。試合の前半、あれだけコーチャーズボックスで声を出していたのに、最後は黙ってしまった長男も、思うところはあったろう。


 がっかり。でも、人は負けることの方から多くを学ぶのだ。