ご当地もの

 忙しい忙しいといいながら、あいかわらず余計な本を読んでいる。債権者のみなさまの目がきつくなるのを覚悟して、ちょっと読書ノート。


プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

 
 一冊目は、『プリンセス・トヨトミ』。話題の本であるが、文庫になったのを機に読んでみた。ある意味超人的な主人公たちの超常的活躍(ちょっと京極夏彦の榎木津探偵を思わせる)と、少年少女の友情ものを組み合わせている。主人公たちが会計検査院の官僚という点と、主人公の一人である少年が性同一性障害である点がすこしひねってあるが、それをのぞけば、わりと古典的である。


 ストーリーテリングが巧みであることは言うまでもないが、やはり空堀商店を中心とする「ご当地もの」であるのが、ヒットの最大の原因であろう。あそこで描かれている様子がどれほど現実に近いかは知らないけど、大阪を知らない人間には、いかにもディープな大阪という感じ。それが気に入る人なら、楽しく読める小説だろう。


県庁おもてなし課

県庁おもてなし課

 もう一冊は『県庁おもてなし課』。ふつーの県庁職員が、地元出身の売れっ子小説家と出会うことから急激に覚醒して地域おこしで活躍するという話と、主人公の青年とアルバイトの女性のかわいらしい恋愛ものの組み合わせである。メインは、お役所体質の主人公が「民間」の感覚に目覚める話と書くと、いかにも鼻につくが、それをいやらしくしないのが、舞台となっている高知県に対する小説家の愛であろう。


 いずれも主人公の活躍話を縦軸(どたばたを含む)、ちょっとしみじみする人情ものを横軸にして、「ご当地もの」の味を加える、という意味では同じ構造である。ある意味、ヒットの計算が見えてくるといえるかもしれない。


 が、いまの時代、やはり「ご当地」フレーバーなしにはヒットしない、という点はおもしろいと思う。それがどれほど、薄められ、商品化された「ご当地」であっても。