国民的作家

 この間、いろいろなことに手をつけ、ばたばたしてきたのだが、それらのことについてはあまり書く気がしない。わりとどーでもいいのだが、何となく書いてみたいことを書くという、このブログの基本精神に戻りたい。


 新潮社から『芥川龍之介短編集』というのが出ている。

芥川龍之介短篇集

芥川龍之介短篇集

村上春樹の翻訳で知られるジェイ・ルービンの編で、ペンギン・クラッシックスから出た本を、日本語に戻したもので、いわば「逆輸入版」というところである。序文を村上春樹が書いているのが、何といっても注目だろう。


 僕はいままであまり芥川を読んだことがなかったので、今回、例の「羅生門」とか「薮の中」を読んで、なるほど、芥川というのは、触ると血が出るような自意識の人が、その自意識を、古典的題材を使い、一種の「芸」として昇華した人物だということがよくわかった。それだけでも、この本を読んだ価値はあったと思う。


 が、やはり目玉は村上の序文である。もしこれが最初から日本語で出る本だったらきっと書かなかったろうな、ということが割と無防備に書いてあって面白い。


 一例をあげれば、村上は、自己流の「国民的作家」セレクションを書いている。夏目漱石を筆頭に、森鴎外島崎藤村志賀直哉谷崎潤一郎川端康成と、(意外に)まともであるが、これに「うまくいけば上位五人の中に潜り込めるかもしれない」芥川や、「確信はないけど」と太宰治三島由紀夫が加わる。村上が好きなのは夏目と谷崎で、それからだいぶ離れて芥川、と続く。森は「悪くないけど」、川端は「苦手」、島崎と志賀は「とりたてて興味がない」とつれない。まあ、それはともかく、村上の独特な芥川への共感ぶりがおもしろい。


 僕のまわりには志賀を偏愛するGさんとか、社会調査の鬼だけど実は芥川ファンのMくんとか(いや、社会調査と芥川好きは別に矛盾しないけどさ)、いろんな人がいる。僕は平凡だけど、夏目と、それから太宰の作品のあるものが、やっぱりいいなあと思う。