見たもの(3)

 三陸リアス式海岸というのは、子どもの頃、地理の時間に勉強した。のこぎりの刃のように、細かいジグザグの地形が続く。そして、その小さな入江の一つひとつに小さな集落がある。そこに行くと、ほんとうに美しい海が、それぞれの集落のためだけに存在している。今回、その美しい海が、おそろしい災いをもたらしたのだ。


 釜石や大槌については既に触れたが、両者を往復する間、両石、鵜住居、あるいは唐丹といった集落を通った。これらの集落については、必ずしも十分に報道されていない。しかしながら、その被害は、見た瞬間、息をのむものであった。つまり、そのうちの何カ所では、文字通り、集落そのものがなくなってしまっている。すべてが津波によって押し流されてしまったのだ。狭い入江に入り込んだ津波は、おそろしい高さになったという。


 僕らがよくとまった旅館は、鵜住居の根浜という地区にある。ここに行く途中、びっくりしたのは、自分自身なんども早朝に歩いた砂浜がなくなってしまい、入江になっていたことである。がけを回り込む道を行くと、いきなり視界が開けて海になっている。そこにあったはずの木々がなくなり、海水が奥まで進入している。鮭を呼び戻すべく、この浜を愛する地元の人々が努力していたことを思うと、言葉もない。


 浜では鉄筋作りのこの旅館だけが残っている。自身波のまれたものの一命をとりとめた女将は、旅館を被災者に開放し、避難所としていた。このような状況でなお希望を語ろうとする女将のために、いったい自分に何ができるのだろうか。考え続けている。