見たもの(2)

 釜石からさらに道を進むと、より衝撃的な風景が続くことになる。翌日訪れた大槌町は、報道でも知られるように、町長さん以下、町役場の多くの人々が津波の犠牲者になっている。実際、行ってみると、町役場を含め、2、3の建物の構造が残っている以外、あたり一面、すべてが津波によって破壊され、押し流されてしまっている。ほんとうに「壊滅的」という言葉はこういう状態を指すのだと、思い知った。


 何も残っていない。津波というのは、こんなにおそろしいものなのか。人の気配はほとんどなく、出会ったのは、自衛隊員以外に、NHKの腕章をした若い女性と、自宅の廃墟から思い出の品を掘り出す数人の住民の方だけだった。風が強く、砂塵が吹き荒れ、トタンや木片が飛んでくる。


 あるいはテレビで見た人もいるかもしれない。僕らものった観光船「はまゆり」が、わずかに残った建物の上に、すっぽりとのっかっている。写真で見るといかにも奇観であるが、現物はもっと平凡で、もっと悲しげである。海を見ると、「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった島が、陸からの連絡橋が流されて、ぽつねんと孤立している。


 ふと道ばたをみると、住民の方が引っ張り出したのであろう、かごの中に、トロフィーと、アルバムが何冊か積んであった。それ以外に、人間の生を思わせる痕跡は見つけられなかった。