見たもの

 釜石から帰ったのだが、まだぼおっとしている。自分の見たものをどう表現していいやら。うまく整理がつかない。


 花巻から釜石まで車で行った。途中、ほとんど震災を思わせるものはない。対向車線に他県(なにわナンバーが目立った)の車と、自衛隊の車が目立ったくらいだ。それでも、小学校の校庭だろうか、自衛隊の車両で埋め尽くされている。


 釜石も駅までは、ほとんど前のままだ。ところが、そこを過ぎると光景が一変する。道路にはがれきが積み重なり、商店街は一、二階部分はむちゃくちゃになっている。シャッターはねじまがり、店舗の中は泥にまみれている。さらに進むと、車が横転し、なかにはぺちゃんこになって建物の壁に張りついているのもある。なじみのホテルも、無残な廃墟と化している。


 ショックだったのは、何度も話を聞いた郷土史家の先生の家を訪ねたとき。近所の方にうかがったところ、足の悪かった先生は奥様とともに犠牲者になったという。


 よく出かけた飲屋街は跡形もなく流されていた。港に近づくにつれ、破壊された工場、押しつぶされた木造建築が目立つようになる。残った建物には、生存確認チェックの○と×が書かれている。「解体して下さい」という所有者の書き残しも目につく。がれきを乗り越えて埠頭に出ると、陸にのりあげたタンカーと、折れ曲がった防潮堤が目に入った。がれき撤去に着手したばかりの自衛隊員と、クロネコヤマトの車だけが、動いていた。