船旅

 はっきり言って、机にしがみついているばかりで、ネタがない。それにしても、このアメリカ滞在、はじめから終わりまで、いつも締め切りに追われ続けた。「来月になったら時間ができる」と言い続けたA-sanには、すっかり信用を失ってしまった。狼少年、もとい狼中年である。


 そうそう、しばらく前にクルーズにのりにフロリダに行った。業を煮やしたA-sanがDaichiの学校の休みに企画したものだ。「え〜クルーズ(プチブルっぽくて恥ずかしいな)」とか、「あ〜締め切りが〜(死ぬ〜)」といつまでも煮え切らないと、本当に置いていかれかねないとの危機意識から、一緒に出かけたのだ。


 まあ、半分馬鹿にしていたクルーズ旅行であるが、ある意味で、たいへんアメリカ理解に役立った気がする。ちなみに、世界でもっともクルーズ旅行が好きなのは、アメリカ人ではなかろうか(日本のシルバーも好きだけど)。少なくとも、フランス人は、ああいうの、好きじゃないだろうな。一カ所に滞在してのんびり過ごすのが、フランス流である。


 まず感心したのは、マネージメント能力。船は10数階の、いわば浮かぶ巨大ホテルである。一度に上下船する人の数は半端でない。それを上手にグループに振り分け、混乱なく手続きし、船に乗せるのは、さすがである。食事も三つの大レストランを時間制にして、たくみに回転させる。毎日、「今日の催し」というプリントが配られ、三つも四つもある映画館や劇場のプログラムを紹介する。


 次に「へえ〜」と思ったのは、大人と子どもを同時に楽しませる工夫である。プールがいくつもあり、ゲームセンター、艦内探検、花火大会など、子ども向けのイベントが分刻みで続く。と同時に、幼児の託児所や、キッズクラブなどがあり、子どもを預けて親はゆっくりできるようになっている。大人専用の、音楽隊つきのプールや、バーまである。まあ、大人も子どもも、それぞれの欲望を充足せよ、ということだろう。それでも見ていると、親はせっせと子どもやおじいちゃんおばあちゃんと接している。ここで家族サービスを一気に、というところか。


 クルーズは3泊4日で、毎日どこかに寄港する。その間、下船してもいいし、船に残って遊んでいてもいい。食事込みであるが、値段も割とリーゾナブルである。まあ、いかにも、アメリカン・ミドルクラスのお楽しみの場である。


 至る所で、食べ物、飲み物がフリーであり、その点もアメリカらしい。「好きなものを、好きなだけ食べろ」ということか(過剰消費!)。でも同時に、つねにフィットネスは大にぎわいで、艦内ジョギングコースを走る人までいる。いろんなところで、いかにもアメリカらしいなと思いつつ、批判的意識はどこへやら、アメリカ的娯楽をすっかりエンジョイしたのであった。