エンパイア・パスポート

 僕の住んでいるのはイサカの町であるが、地理的にいえば、イサカはニューヨーク州の中西部に位置する。マンハッタンとはまったく違う田舎町であるが、イサカもまたその周辺地帯とはかなり雰囲気が異なる。政治的にいっても、ニューヨーク州はニューヨーク・シティ以外は保守的な地域である。リベラルが強いイサカの町は、いささか広大なニューヨーク中西部の浮き島のような存在ということになる。


 最近、「エンパイア・パスポート」というのを購入した。これがあると、ニューヨーク州の州立公園すべてに自由に入れる。こちらの有料公園は車単位で課金されるので、このパスを車の窓ガラスにぺたっと貼っておくと、それでどの公園に行ってもフリーパスになる。せっかく購入したので、せっせとイサカ周辺の州立公園を訪れている。


 それにしても「エンパイア・ステート」というのは、すごい名前だな。「帝国州」なんて、何だかスターウォーズみたい。これはニューヨーク州の別称なのだが、お隣のニュージャージーが「ガーデン・ステート」(ニューヨークの「庭」ということだろうか?)とつつましいのと比べると、なんともインパクトがある。無限に拡大するアメリカの心臓部という自負を示しているのだろう。


 ちなみにイサカを田舎田舎と呼んでいるが、イサカをちょっと出ると本格的な「田舎」である。道路が地平線まで一直線に続き、周辺には森と畑しか見えない。1時間走っても、信号一つ出会わない。ガソリンスタンドもないので、ガス欠になったらたいへんだ。そんな道をひたすらアクセルを踏み込んで走る。大地のうねりにあわせてアップダウンを繰り返していると、なんだか独特な感覚になる。まあ、こういう感覚がこの地域の政治的気分ともつながっているのだろうな、と思う。