チャールズ

 コーネルの語学研修では、若い友人をたくさん作れてよかったが、教師陣にもなかなか面白い人が多かった。


 そのうちの一人にチャールズという、おそらくは50代と思われる人物がいる。今回の教師陣のなかではもっとも地味な人物であり、その独特な高踏的ユーモアは、残念ながら、学生にあまり理解されていなかったように思える。


 よく聞けば、フランスの文学研究が専門らしい。現在は一年間のほとんどを、パリで過ごしている。とはいえ、研究では職を得られず、もっぱら英会話の教師をして生活を支えているという。「研究で食べていければ一番よかったんだけどね」。一緒にバーベキューをしたときに、ぽつりぽつりと話してくれた。


 このチャールズと何回か昼食を一緒にする機会があった。彼の文学と絵画をまたがる記号論的なアプローチについて、現代アメリカ文学村上春樹について、、、教養ある彼の話は、すご〜くユニークというわけではないが、なかなかに味わいがあった。少なくとも僕は好きであった。ポール・オースターについて手ほどきもしてくれたし。


 ちょっと狷介だけど、微妙なユーモアがあり、自分を正直に語るこの人物のことを忘れないような気がする。