父と子

 

父と子の思想―日本の近代を読み解く (ちくま新書)

父と子の思想―日本の近代を読み解く (ちくま新書)

 小林敏明『父と子の思想』(ちくま新書)を手に取る。正直いって、やや時代がかったテーマである。父と子の葛藤、父なるものへの抵抗、、、う〜ん、父親というものが、厳しい存在として、子供のスーパーエゴとなった時代ならいざ知らず、今の時代のテーマとしてはいかがなものか、、、


 本書は、夏目漱石中野重治中上健次らのテキストを分析することで、近代日本における父なるものの変遷を分析する思想史である。なかなか重厚な分析ではあるが、どうも旧時代的な印象がある。


 それでも、読んでいくと、読み応えがある。ちょうど、フランスの政治哲学者マルセル・ゴーシェの精神病とパーソナリティの歴史をめぐる論文を読んでいたときなので、いろいろ思い当たる部分がある。


 あとがきが印象的である。著者は熊野大学に呼ばれ、中上健次をめぐる講演をしたという。その際、ある種オーソドックスというか、直球勝負で中上を論じたところ、同席した浅田彰に「昔から言われてきた話ばかり」と罵倒され、化石扱いされたらしい。


 たしかに、自分の議論は化石的かもしれない。でも、思想を論じるということは、自分にとってのリアリティを追究することであり、時代遅れになっても、また一周して、時代と交錯することもあるかもしれない。そう、著者は居直る。が、いきり立つわけでもなく、不思議にたんたんとしているのが、なかなかいい。


 明らかに、現代的父と子の関係は、近代における父と子の古典的関係とは違う。では、どう違うのか。その政治的・思想的意味は?考えるに値する問題だと思う。