父と子
- 作者: 小林敏明
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/06
- メディア: 新書
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本書は、夏目漱石、中野重治、中上健次らのテキストを分析することで、近代日本における父なるものの変遷を分析する思想史である。なかなか重厚な分析ではあるが、どうも旧時代的な印象がある。
それでも、読んでいくと、読み応えがある。ちょうど、フランスの政治哲学者マルセル・ゴーシェの精神病とパーソナリティの歴史をめぐる論文を読んでいたときなので、いろいろ思い当たる部分がある。
あとがきが印象的である。著者は熊野大学に呼ばれ、中上健次をめぐる講演をしたという。その際、ある種オーソドックスというか、直球勝負で中上を論じたところ、同席した浅田彰に「昔から言われてきた話ばかり」と罵倒され、化石扱いされたらしい。
たしかに、自分の議論は化石的かもしれない。でも、思想を論じるということは、自分にとってのリアリティを追究することであり、時代遅れになっても、また一周して、時代と交錯することもあるかもしれない。そう、著者は居直る。が、いきり立つわけでもなく、不思議にたんたんとしているのが、なかなかいい。
明らかに、現代的父と子の関係は、近代における父と子の古典的関係とは違う。では、どう違うのか。その政治的・思想的意味は?考えるに値する問題だと思う。