丸山眞男再び

 田中久文『丸山眞男を読み直す』(講談社選書メチエ)を読む。これだけ丸山本が世にあふれるなか、新しい丸山論を書くのは当分難しいのではないか、と思っていたのだが、この本はなかなかに本格派である。


 一つの特徴は、著者が長らく京都学派を研究してきたということで、丸山を京都学派との比較において捉えようとしている点。ただし、本の冒頭で、いくつか印象的な指摘はあるのだが、この視点は、本を読み進めるにつれ後退していく。


 もう一つの特徴は、あくまで丸山の「夜店」、すなわち政治学や政治評論の仕事ではなく、「本店」である日本政治思想史研究のみを対象としている点。とくに東大での講義録を本格的に取り上げているのは、従来の丸山本にはなかった特徴であり、これが本書の最大の売りになっている。


 議論がていねいで、いたずらに丸山の議論を類型化したり、決めつけたりしていない点には好意がもてる。それから、現在の日本思想史の研究の成果によって、丸山の個別の思想家理解を相対化しているのも、参考になる。


 とはいえ、正直いって、「主体性」論からはじまって、「他者感覚」論で終わる本書の丸山像。あまりにオーソドックスで、意外性に欠ける気もしないではないが、、、