星野博美

 先日、昔ゼミ生だったI君と再会した。その前後、メールも何通かもらった。


 そのI君が昨日、再度メールを寄こして、「星野博美がいい!」と言ってきた。星野博美と言われても、ピンと来ない人もいるかもしれない。いや、僕もそうだったのだが、調べてみると写真家であると同時に、ノンフィクション作家として知られ、とくに中国についての作品が人気らしい。I君の文章のあまりの熱意におされ、Daichiと一緒に近くの本屋に出かけた。で、Daichiはポケモンの本を、僕は彼女の『謝謝!チャイニーズ』(文春文庫)を買ってきた。

謝々(シエシエ)!チャイニーズ (文春文庫)

謝々(シエシエ)!チャイニーズ (文春文庫)



 そして、Daichiが寝静まったいま、早速この本を読んでいる。若干、邪道だが、「文庫版のあとがき」、「おわりに」から読んでいく。昔、沢木耕太郎をよく読んでいたころを思い出させる旅行記である。


 僕もかれこれ、ずいぶん世界の各地を旅してきた。が、正直いって、どこに行っても、定型的な観光客の域を出ず、現地の人とほんとうに深く交流したという経験は、残念ながらない。そんな僕にとって、この本はとてもまぶしい。出てくるエピソードの一つひとつが心にしみる。


 でも、この星野さんという人は、中国人を心から愛しつつ、しかし、自分は中国人にはなれない、という微妙な距離感を保っている。中国を見る目は愛情深いが、しかし冷静である。旅行記という形をとりつつ、ストレートではないが、自分を語り、日本を語っている。声高ではないが、洞察は深い。たいへんな書き手であると思う。


 こんな文章を書けたらいいな、というI君の気持ちが少しわかった気がする。