オバマを選んだアメリカの複雑さ

 越智道雄という人がいる。アメリカ研究者であり、アメリカ社会論、文化論について、実に多くの著書を出している。


 昔、彼の『ブッシュ家とケネディ家』という本を手にとり、読んだことがある。なかなか面白い本で、ふ〜ん、こういう人がいるんだ、と記憶した。


 最近、この人が2冊の本を出した。1冊は町山智浩との対談本であり(『オバマ・ショック』)、これは正直いって、お手軽な本だな、という印象だった。


 で、もう一冊が『誰がオバマを大統領に選んだのか』(NTT出版)。

誰がオバマを大統領に選んだのか

誰がオバマを大統領に選んだのか



 これもトンデモ本と微妙なところだが、けっこう感心した。アメリカの文化を「北部帯文化圏」、「ミッドランド文化圏」、「高地南部文化圏」、「沿岸南部文化圏」に分け、これを、これらの文化圏の原型を形成した、各地域に移民を輩出したイギリスの地域と対応させる。これらアメリカの各地域は、同じアメリカといっても、かなり異質な政治文化を有しており、この4文化圏の関係から、アメリカの政治史、さらにオバマ政権誕生の背景を読み解くのが、本の趣旨である。


 「北部帯文化圏」の文化的資産であるタウンシップと、自らの活動の基盤であるシカゴの「都心スラム」の間で微妙に引き裂かれたオバマの政治的位置をなかなか巧みに説明する。また、ヒラリーとの対決の、歴史的な意味の解釈も面白い。


 オバマのアメリカにおける位置は実に面白い。裏を返すと、アメリカ社会の複雑さは、ほんとうに微妙怪奇を極める。オバマの実験を読み解くうえで、重要な補助線を与えてくれると思う。