『傍観者からの手紙』

 久しぶりにDaichiと二人で時間を過ごす。プールに行った後、自転車の練習。しばらくして二人で買い物に行き、二人でハンバーグを作り、近所に住む母を呼んで三人で食べる。ドラゴンズも勝って、まずはいい一日だった。


 Daichiが機嫌良く寝てくれたので、しばし本を読む。なんとなく本棚から取り出したのが、外岡秀俊『傍観者からの手紙』(みすず書房)。イラク戦の時期にロンドンの特派員生活を送った著者の、書簡のかたちをとった時評である。毎回、文学・思想作品を一つ取りあげているのが、印象的である。


 この外岡さんという記者、朝日新聞でいうと、昔、天声人語を書いていた深代惇郎と似た空気を持つ書き手であるように感じる。僕はこの深代という人が好きで、大学生の頃、よく読んだことを思い出す。いい意味で、朝日のスノッブな伝統のよき体現者だった。とくに政治的な人ではないが、落ち着いた知的な文章のなかに、うっすらと政治性をにじませる、という書き方だった。


 そういえば、この本が出た当時、柄谷行人が書評に取り上げていたのが印象的である。文学作品を語ることを通じて静かに、しかし根底的なレベルで社会を論じる可能性という意味で、文芸批評家だった頃の柄谷(悪い意味で言っているのではない)を思い出させるセレクションだと思った。