『東京奇譚集』

 

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

 村上春樹東京奇譚集』(新潮文庫)を読む。まあ、逃避だね。でも、おもしろかった。


 親に愛されなかった子ども、子どもを愛せない親、人はしかるべきときに愛され損ね、また愛し損ねることで、傷つく。そういうトラウマをもった主人公たちの短編集。


 でも村上のものらしく、作品はどろどろしておらず、あくまで清潔で、淡い。このあたりが批評家が村上を批判する点であるし、逆に村上に対する需要の源泉の一つであろう。


 損なわれた主人公たちは、それでも生きていく。結末はどれも(村上にしては)相対的にハッピーなものである。一人ひとりの心の傷の背景には社会的なものもあるが、村上はことさらに強調しない。ただ、ところどころに点のようにちらすばかりである。


 まあ、いろいろな意味で、今の村上らしい作品といえるか。