向田邦子

 向田邦子の『あ・うん』を読む。中年夫婦の三角関係を描いた小説である。僕はブンガク青年ではないので、三角関係とか四角関係とか、ややこしいことは、できればエンリョしたいと思っている。でも、この小説、扱っているトピックのきわどさに比べ、とても落ち着いていて、感じのいいストーリーである。


 仙吉(『小僧の神様』の主人公と同じ名前)とたみという夫婦と、たみに心を寄せる門倉という男が主人公なのだが、話がややこしいのは、仙吉と門倉が親友である、という点にある。つまり、仙吉は、自分の親友が、自分の妻に思いを寄せているということを知りながら、それでも親友との友情を大切にしている、ということになる。


 これだけ書くと、ややこしい話に聞こえるが、小説はあくまでも穏やかに進む。戦争に向かう昭和初期の世情を背景に、いくつかのドラマをエピソード的にちりばめながら、ストーリーは淡々と進んでいく。仙吉とたみの子どもさと子と、仙吉のろくでもない父親の視点が、微妙にストーリーのあやを成す。


 向田邦子はうまいなあ。読ませるなあ。ここには、今と違う時が流れている。