政治を見る目

 佐藤優国家の罠』(新潮文庫)を読む。この人の本を過去何冊か読んできたが、この本が彼の実質的デビュー作であり、対ロシア交渉の歴史、外務省内部の争い、逮捕から獄中生活までがリアルに描かれている。


 この本が読み物として優れているのは、著者自身が渦中の人物であり、本のなかで自らの立場の正当化や弁明をしているにもかかわらず、不思議とたんたんとした印象を読者に与えていることである。けっして客観的であったり、中立を装っているわけではない。当の本人が「国策捜査」の被告となっていくわけであるから、その叙述が中立的であるはずがない。にもかかわらず、自分をどこか突き放した視点から描いている。少なくとも、そういう印象を与えるのである。


 政治について書かれた本で、読むに足るものには、こういう印象を与える本が多い。政治の世界にいるものはすべて、政治性から自由にはなれない。中立の立場はない。にもかかわらず、自らの政治性をどこからか見下ろすような視点がないかぎり、政治の世界のダイナミズムを描くことはできない。このあたりに政治を語る書物の秘密がありそうだ。