釜石についてもう少し

 ちょっと前のことになるが、釜石でのことをもう少し。


 商店街の多くの店はシャッターを閉めたまま、典型的な「シャッター商店街」であるが、その一角に、とても素敵な店舗がある。陶器、漆器、布製品を、美しく並べたとあるお店。お店というより、とりあえず居心地のよい空間という感じ。このお店を経営しているのは、品が良く、穏やかだけど、りんとした三十代と思われるご兄弟である。前からこのお店のことは聞いていたけど、お店にはいるのははじめて。弟さんがたまたまいらして、しばらくお話する。途中からお母様も出てくる。ともかくセンスがよく、しかしどこまでも奥ゆかしい。この街には、こういう人がいるんだなあ、とあらためて感銘を受ける。


 この弟さんとお話しているとき、なんの気なしに、「ここのところ、北海道に行ったり、島根に行ったり、たいへんなんですよ〜」と口にしてしまった。そのとき、彼に、深いためいきとともに、「いいですね〜、うらやましいです」と言われてしまった。この地で生きていくことを選びつつ、それでも、いろいろ思いがあるのは言うまでもない。言うべきでないことを口にしてしまったかな、とちょっと後悔した。


 夜は地元の図書館の館長さんと飲みに行く。「今日はもう一軒、行きましょう」とスナックにつれていかれる。いや、この館長さん堅物なのだが、歌が上手いのだ。カラオケで歌う館長さんに、ちょっと聞き惚れる。でも、その間、ちょっとだけお店の人と話す。前に、僕の今住んでいる場所の近くに住んでいたという。「こっちに戻ってくるには、いろいろ思いもあったんですけどね〜」。少しだけ、昔の話と今の暮らしを聞かせてもらう。


 そんな言葉の端々を、ふと思い出す。この夏の記憶である。