『大学という病』

大学という病―東大紛擾と教授群像 (中公文庫)

大学という病―東大紛擾と教授群像 (中公文庫)

 竹内洋『大学という病』を読んだ。登場人物は、河合栄治郎大内兵衛、大森義太郎など、はなばなしいのだが、戦前から戦中の学問への弾圧という悲劇をのぞけば、そこに描かれているのは、今の時代と変わらない大学教員たちの姿である。まあ、たいめいきが出るくらい、何も変わらない。しかしながら、大学教員たちが、その特殊な職場環境のなかで、いかなる野心と欲望を持ち、いかなる嫉妬や不満に突き動かされるかを描く竹内の筆はさえている。さえているだけに、外野的には面白くもあり、内輪的にはうんざりもする。


 それにしても、大学教員にとって危機の時代というのは、50代なのかな。今の時代、40代からすでに危機という気もするけど。


 意外であり、面白くもあるのが、言わばこの本での悪役である土方成美に対して、著者が本の最後になって思いのほか共感的であること。土方を狂言回しとして、彼の口を借りて、本をしめくくらせている。ある意味、「偉人」であった河合や大森よりも、むしろ土方の方に人間味を感じているのだろうか。


 あと、戦後の民社党周辺のブレインたちが、河合人脈というのも面白いと思う。猪木正道、関嘉彦、蝋山政道などなど、、、河合のリベラリズムからイギリス社会主義へとつながる路線が、マルクス主義と対抗する一つの潮流を作ったというわけだ。民社党という政党がたどった末路はともかくとして、こういう知的な流れについて、それなりに考えてみたいとは思う。