『滝山コミューン』
- 作者: 原武史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/19
- メディア: 単行本
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著者と僕とは5歳ほど歳が違うわけだが、僕が小学校にいた頃の記憶を思い出すと、なるほどそうだったのかと思い当たることが多い。僕が小学校の5年のとき、新興住宅地に新しい小学校が作られ、そこに僕らも転校するかたちとなった。そこでは、きわめて’熱意’ある先生たちが集まり、意欲的な取り組みをしていた。班活動における自主的なグループ運営、各種委員会活動への参加、児童会選挙における模擬デモクラシー体験などなど。ははあ、あれは、あの頃の、一種の最新の理論に基づく’進歩的’な実践だったわけだ。
この本の最大の特徴は、この時期の教師やPTA、そして何より子どもたちの生活や意識を、興味深く記録している点にある。この側面が、著者の歴史家としての本領を発揮している部分であるとすれば、もう一つの側面が、この時期に対する著者のぬぐいがたい違和感である。すなわち、この種の、理想主義的な教育実践に秘められた抑圧的側面に対する時間を超えての告発である。もちろん、著者はこの時期の’民主的’昂揚(これを著者は’コミューン’とさえ呼ぶ)の、正と負の両側面を見るようバランスをとっている。しかしながら、やはり読後感として残るのは、著者の、自らの少年時代とそれを囲む時代の空気に対する、なんとも言えない重苦しい感情である。
正直なところ、僕は、自分が出会った、この時期の’熱意’ある’進歩的’な教師たちに対し、著者ほどの否定的感情を持っていない。まあ、僕はそういうタイプの教師に気に入られる’優等生’であったということだろうが。いずれにせよ、本書の後半になるにつれ強まる、著者の強烈な情念に圧倒されたというのが、感想である。