テツオ・ナジタ

 テツオ・ナジタの『明治維新の遺産』(中公新書)を読む。テツオ・ナジタというと、日本思想史のシカゴ学派の祖というイメージが強いが、この本は彼の初期の作品で、原敬の政治指導力などを分析していた頃のもの。基本的にはアメリカの読者に日本政治思想史のアウトラインを説明するもので、今読むとごく普通の概説だが、当時とすれば、非マルクス主義的な通史として、なかなか画期的なものだったと思う。近代日本の思想を、大久保に代表される「官僚的合理主義」の系譜と、西郷に代表される「理想主義」の系譜との相克として捉えている。その意味で、原敬浜口雄幸らの現実的政治指導はたかく評価されるが、他方、彼らに反発する「理想主義」が、北一輝らに代表されるように、昭和初期に噴出することになる。


 ナジタは両方の系譜を押さえつつ、両者の間に新たな関係を作り出すこと、その上で政治的な自覚を持ち、自己主張する社会階層を創出し、その忠誠心を獲得するような新たな政治的言説を生み出すことを、今後の日本の課題としている。今なお、興味深い指摘だと思う。