ゲド戦記

 そんなひま、よくあるなと、世の反感を買いそうだが、実は『ゲド戦記』の1〜3巻を読んでしまった。一冊1000円のソフト版が出て、ついつい買ってしまったのだ。


 しかし、今回、読み直してみて、およそファンタジーとは思えない本であると痛感した。主人公のゲドは魔法使いであり、大賢人と呼ばれている。しかしながら、魔法を使って敵をばったばったと投げ飛ばすシーンはまったくなく、むしろ悩んでふさぎ込んだり、披露困憊したり、無力な姿ばかりである。


 青年ゲドの活躍を描いた第一巻のテーマは、何よりおそろしい闇は自らの内面にあるという話。第二巻には壮年ゲドも出てくるが、むしろ主人公は少女の主人公テルーであり、自己解放と、自由の過酷さがテーマ。第三巻は老年ゲドが、すべてが狂いゆく世界の中で、苦闘の末に自らの魔法の力をすべて失う話。


 ゲドは大賢人のわりに愚痴っぽいし、その周りからも、ひたすら尊敬されているというより、不信感をもたれたり、あなどられたりする。実にシビアな話だ。


 この本、子供が読む本というより、僕ら少々くたびれてきた世代が、自由について、自分の仕事について、他人との関係について、踏みとどまって考え直すための本に見える。深い本である。