『むらぎも』

 というわけで、中野重治のものを何か読みたくなった。ところが、本屋に行っても見つからない。彼の自伝的小説である『むらぎも』や『梨の木』、いまは絶版なんだねえ。全集は、となると高くて手が出ない。


 それでは、図書館に行くかと思っていたところ、ふと実家の引っ越しのとき、自分の本棚からもってきた本を入れた段ボールをあけてみる。おお、講談社文芸文庫版の『むらぎも』が出てきた。ビンゴ!


 この講談社文芸文庫、たいへん好きな文庫であるが、すぐに絶版になっていまい、めったに再版しないのが難。出たときに買っておかないとだめである。


 『むらぎも』は東大新人会時代の中野の自伝的小説である。政治運動に入りながら、「それはちょっと違う」と思う、主人公のある種、直感的な倫理観が初々しい。いい小説だとあらためて思ったが、たしかに、いまどきはやらないかもしれない。


 そういえば、大学院時代の仲間で、その後、アカデミズムを去り、その外の世界で大活躍のYさんが、中野のことを好きだったのを思い出す。なんだかわかるような気がする。