松本清張

 何となく松本清張づいて、『或る「小倉日記」伝』(新調文庫)を読んでいく。ある独特の才能をもった人間が、しかしそれを発揮する場にめぐまれず、それどころか無理解と不遇のなか死んでいく、というパターンの話が続く短編集である。はっきりいって暗い。清張がそこに、自分の過去を投影していることは明らかだ。


 ただ、それが単に恨み節であったり、自分を受け入れない社会への呪いだけであったら、小説としては少々つらいものになる。


 ところが、この短編集、不思議にたんたんとしていて、そういう負の情念の重苦しさが感じられない。そこが清張という人の特徴なのかもしれない。


 必死に生きる意味を見いだそうとする主人公たちに、清張はもちろん同情的なのだが、どこか突き放した視線の方が強い気がする。


 ハッピーエンドにはならない。むしろ、プツっと話は終わってしまう。ここをしつこくすると、やや通俗的になるのだが、清張の小説はこのあたりのバランスが微妙である。悲劇でもなければ、「いい話」にもならない。

 
 そういう清張の短編を、それでも何となく読んでしまう。