佐野眞一

 ノンフィクション作家の佐野眞一の本を久しぶりに読んだ。前にも、正力松太郎を描いた『巨怪伝』や、宮本常一を主人公とする『旅する巨人』などを読み印象的だったが、最近はすっかりご無沙汰であった。東電OLものにはあまり食指が動かなかったし、石原慎太郎ものは何だか結論が見えている気がして、これまた読む気がしなかったのだ。


 が、最近の著作である『誰にも書かれたくなかった戦後史』(集英社インターナショナル)と『阿片王』(新潮文庫)はいずれも力作であると思った。前者は沖縄戦後史であり、大江健三郎の『沖縄ノート』的な沖縄とも、最近の癒しの島としての沖縄とも違う、ある種のリアルな沖縄を描いている。暴力団の抗争史から始まり、沖縄財界について、軍用地主について、さらには芸能まで、沖縄の戦後の表と裏を明かしていく。


 後者である『阿片王』は、阿片密売の総元締めとして中国大陸に暗躍した里見甫を主人公とする、満州もの。日中戦争がいかに第二のアヘン戦争であったかを、怪物である里見を主役に、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)として描き出す。


 佐野は戦後日本を考え直すにあたって、沖縄と満州に注目する。鋭い視点だと思う。


 さらに近刊である『目と耳と足を鍛える技術』(ちくまプリマー新書)を読むと、佐野の次なるテーマは「天皇制」と「平成」だそうである。むむむ、ちょっと期待してしまうな。