工事現場

 工事現場を眺めるのが好きである。いや、自然の風景を見るのが好きであると書きたいところであるが、どうも工事現場の魅力から逃れがたい。


 通勤途中で、いつもその進展を眺めている工事現場がある。先日、その建物に、巨大なドーム状の屋根がくっついた。実に驚いたことに、その前の日まで、まったく何もなかったところに、一日で巨大な屋根がついたのである。


 といっても、実は、その工事現場の作業進行表を見るのが日課であったために、その屋根を地表部分で組み立て、滑車で夜中の間に持ち上げる、という計画は知っていた。とはいえ、ほんとうに、そんな巨大な屋根が一夜でできあがるのだろうか。わくわくしながら、その日を迎えた。


 おおーっ、ほんとうに屋根がついている。しかも、思った以上に巨大だ。いやー、感動だなあー、と涙を流さんばかりに、朝日に輝く大屋根を眺めた。


 ふと、誰か、この感動を共有する人はいないのか、と周りを眺めた。が、気づいてみると、まわりの通勤客は学校や会社へと急ぐ人ばかり。寒空を見上げるヒマ人は、僕だけのようだった。