日本語

 福井を出る直前、ちょっとばかりの時間に本屋に行った。ご当地の中野重治について、何か面白い本がないか探したがいまいちだったので、代わりといっては何だが、福井とは何の関係もない水村美苗の『日本語が滅びるとき』(筑摩書房)を買った。


 後で知ったのだが、この本、はてな関係では、ちょっとした話題らしい。何で話題になったのか、いまひとつ理由がわからないけど。


 で、読んでみての感想。ん〜、正直あまり感心しない。この人の『私小説 from left to rirgh』を『批評空間』で読んだとき、英文と和文が入り交じる文のなかに、驚くほどの繊細さを感じたのを覚えている。が、この本にはその繊細さはない。


 端的に言えば、日本語ナショナリズムの本であり、明治の近代日本文学へのオマージュである。英語の世紀にあって、日本語が生き延びるための真摯な考察といえばいえるが、不用意な表現、雑な議論が目立つ。


 あるとき、日本文学を「主要な文学」と言われたエピソードが繰り返し出てくるが、ほんとうにそう思っているらしく、アイロニーがないのも何だか。


 もちろん、僕だって現代世界のなかでの日本語表現の意義や可能性を信じたい。が、正直いって、この本には違和感の方が先立ってしまう。