山本周五郎

 

完璧志向が子どもをつぶす (ちくま新書)

完璧志向が子どもをつぶす (ちくま新書)

 この前、『完璧志向が子どもをつぶす』(ちくま新書)という本を読んだ。まあ、それはそれで得心のゆく話も多い本だったが、なぜかこの著者、本の終わりの方で、山本周五郎池波正太郎の小説を推している。


 なんだか、本全体の趣旨からいうと、そぐわない気もする。でも、何となく気になって、はじめて山本周五郎の小説を読んでみた。


 そういえば、フランスにいた頃、やはり、はじめて藤沢周平の小説を読んだ。政治というものへの不信感、自分にはどうにもならない運命への諦観、そのなかでの人と人の繊細な感情の交錯を描く点で、藤沢と山本は似ている。二人とも、読んでいて、そうだよなあ、と思わせる技巧の持ち主である。描いている世界は古くさいのだが、そのなかにはっとするような現代性を感じさせる部分もある。


 山本周五郎の特徴は、藤沢にもまして、ある種、わかりやすくない、すっきりしたかっこよさとは対極的な主人公を描いている点にある。山本は、あきらかにそういう主人公に共感している。本屋の文庫コーナーに行くと、あいかわらず山本の本がずらりと並んでいる。彼の人気の理由の一部がわかった気がした。