青木保

 前にも書いたような気がするが、僕が大学院に入った頃、つまり90年代のはじめだが、強い影響を受けたのはやはり柄谷行人であった。『探究』をはじめとする彼の著作にあこがれ、彼の言葉づかいをまねた(今回の本でも、「トクヴィルの可能性の中心」なんていう言葉づかいに、なんとなく気配が残っている)。あと、もうひとりあげるとすれば、僕の場合、見田宗介の影響も小さくなかったと思う。


 ふと、思ったのだが、そういえば、あの頃、僕にとって文化人類学というのも強いあこがれの対象であった。当時読んで強い印象を受けたのが青木保の『タイの僧院にて』である。若き人類学者であった青木が、自ら新米僧として修行をするなかで、思ったこと感じたことをみずみずしくつづった本である。


 昨日河合隼雄が亡くなったが、人事不省であった彼の後を受けて文化庁長官になったのが、青木保だそうである。あのナイーブで、およそ日本社会の現実とは折り合いのつかなそうだった青木が、そういう職につくような人になったとは、、、人というのは不思議である。