吉野作造

 最近、吉野作造に関心をもっている。「民本主義」というと、なんだか、妥協的でぬるい民主主義者というイメージであったが、坂野潤治の一連の著作によって、もうちょっとこの人の意味について考えるべきだという気がしてきたのである。


 で、まあ、伝記などもぱらぱら読んでいると、けっこう苦労人である。大学を卒業後、研究者の道に進もうとするが、なかなかうまくいかず、食いっぱぐれて子連れで中国に行く。袁世凱の息子の家庭教師というふれこみで、それなりに張り切ってでかけるが、話はまったく違って、現地に着くまでに金はつきてしまう。その後もぼろぼろで、昔の友人たちのおかげで何とか目的地にたどり着くが、この息子というのがまったくぺけで、どうしようもない。


 だいたい吉野は、宮城の古川という町の出身だが、郷里の誇る秀才ということで、一時は神童視されたものの、就職はできず金を使う一方ということで、「親の資産を食いつぶした息子」と言われるようになってしまう。その後も、郷里での吉野評はかんばしくない。


 それでもなんとか大学でポジションを獲得し、ヨーロッパに留学するが、期待していたイエリネックは、市民向けの一般講座くらいしかやっておらず、がっかりする。それでも一生懸命、下宿先の人たちと仲良くやったり、佐々木惣一ら留学仲間と生涯の友情をあたためるなど、ほほえましいエピソードも残っている。


 帰国後ジャーナリズムで大活躍するが、さっさと大学をやめてしまい、宮武外骨のようなおもしろあやしい人たちと組んで明治文化研究をやったりと、なかなか数奇な人生ではある。


 なんとなく吉野の人となりが見えてきて、親しみを感じるようになった。