吉川幸次郎

 吉川幸次郎『宋詩概説』は好きな本だ。詩人の長田弘が紹介しているのを読んで、はじめてこの本のことを知った。岩波文庫の今月の新刊で出ているのをみてびっくり。


 「新しい人生の見方とは、多角な巨視による悲哀の止揚である。人生は悲哀のみには満たないという態度を、それは底辺としてはじまる」。「宋人の詩を通観して、まず感ぜられるのは、悲哀の詩の少ないことである。あるいは悲哀を歌っても、なにがしかの希望を残す。絶望ではない。宋人の多角な目は、人生は悲哀の部分だけではないことを、はっきりと感ずるに至ったのである」。「ことに転換の中心となった詩人は、蘇軾である。人生を長い持続と見、しずかな抵抗と見る」。かっこいいではないか。