プリンストン

 今日はプリンストンに出かける。ペンシルベニア・ステーションに行き、そこでプリンストン・ジャンクションまでのラウンドトリップ・チケットを買う。面白いなあと思うのは発車10分前まで、列車がどのホームから出るのか、わからないこと。10分前になって突然表示が出て、その番号のホームにぞろぞろ移動する仕組みになっている。車内では、検札にきた車掌さんが切符をもぎ取ると、代わりに札のようなものを、前の座席の上にある留め具のようなものにはめる。おりる前にはこれを回収する仕組みになっている。アメリカで列車に乗ったのははじめてだが、所変われば習慣もかわるものだ。



 列車に乗ること1時間ほどでプリンストン・ジャンクション駅に到着。昔読んだ、村上春樹の『やがて悲しき外国語』では、非常にさびしい駅のように描かれていたような記憶があるが、今日はおりる人も多く、駅前には車がたくさんとまっていて、タクシーも何台も待っていた。ここで知人と待ち合わせ、以後彼の車で案内してもらう。



 プリンストン大学ハーバード大学とはだいぶおもむきが違う。静かで上品な大学町。大学の中心部には教会をはじめ、石作りの伝統的な建造物が並んでいる。ハーバードがオックスフォードに似ているとすれば、プリンストンケンブリッジに似ているというか。しかし、大学以外は何もない町だと思っていたが、意外にお店も多く、けっこう大きいショッピングセンターなどもある。



 大学関係者は3種類の人に分かれるという。学部生は、お金持ちの子女が多く、政治的には保守的。大学院生は世界から学生が集まり、こちらはあまりお金持ちではない。それから先生はリベラル派が多いが、学生の親ほどは金持ちではない。まあ、かなり肌合いの違う人々が大学住民を構成しているようだ。見ているとたしかに学生は圧倒的に白人が多く、来ているかっこうもお金持ちっぽい。



 静かな町で、リスがちょろちょろ歩いている。アインシュタインの住んでいた家や、江藤淳の滞在していた家などを教えてもらう。ふ〜ん。その後、プリンストンから車で20分程度の州都トレントンに行く。かつては製造業と商業で栄えた町とのことだが、今は衰退する一方のようである。道沿いに並ぶ家々は、なかなかしゃれていて、かつての繁栄時にはさぞや素敵だったろうと思うが、今は荒れるにまかせてあり、栄枯盛衰を感じる。行政関係以外の町の機能は緩慢な衰弱死の過程にあるようだ。



 先ほど、知人と書いたが、この方、実は二度ほど会ったことがあるだけの関係である。文筆業でよく名の知れた方だが、たいへん親切にご案内くださった。ほとんど丸一日つきあってくださり、その間いろいろな話をした。ボストンの友人もそうだが、こういう機会がなければ、話し込むこともなかったろう。だいぶ刺激を受けた。人にも会い、本も買い、資料もいろいろ集まった。なにより、いろいろ考える材料をもらった気がする。これでまた数ヶ月、がんばれそうな気がする。