『中村屋のボース』

 今日も一日、家でしこしこ仕事をする。短い文章を一つ、校正を一つ終わらせる。どちらも締め切りは昨日だったけど、まあ、誤差の範囲内ということで。


 数日前から、行き帰りの電車のなかで中島岳志中村屋のボース』(白水社)を読んでいる。恥ずかしながら、僕は、この本の主人公、「中村屋のボース」ことR・B・ボースと、チャンドラ・ボースを同一人物だと思っていた。別の人だったのね。


 読みやすいし、評伝としてよく書けている。頭山満とか大川周明も、この本を読んで、だいぶイメージが変わった。何より、このボースという人物がおもしろい。もちろん、日本にカレーを伝えた人ではない。インド独立運動の指導者であり、数奇な運命からその生涯を戦前の日本で終えることになった人物だ。


 最大の問題は、このようなボースの運動と、それを支えた人々たちが、結局のところ、日本の大東亜共栄圏に向けての政策に巻き込まれ、その一翼を担うことになってしまった点にある。中島さんは、ボースや頭山らの思想的弱さについて適切に批判を加えながら議論をしているが、やはり最後の近代日本のアジア主義についての議論は、物足りない印象を否めない。