日本について

ベルリンに来てから、一月と半分くらいである。すっかりとは言わないけれど、かなりこの街に馴染んできた。その上での印象は、開放的で、暮らしやすい、ということだ。大都市だけれど緑が多く、適度に機能的で、それでも生活を楽しむ余裕を失っていない。各種手続き面で、時に官僚主義的な印象もないわけではないが、全般的にはリラックスした都市という気がする。日本にいるときは、ベルリンについて、こういうイメージはなかったと思う。もちろん東西ベルリンの格差や多様なエスニシティのコンフリクトなど、様々な問題があるのは事実だ。それでも、あまりにステレオタイプだった自分のベルリン・イメージを反省している。やはり来て、実際に暮らしてみないとわからない部分もあるものだ。

 

 で、日本のことである。こちらに来る前、「ヨーロッパではもはや日本への関心は乏しく、もっぱら関心は中国に向かっている」という説明をしばしば耳にした。実際、メルケル首相も中国には足繁く通う一方、日本にはそっけない印象もある。が、どうだろう。そうも言い切れないという気がして来た。

 

 もちろん、僕が大学の日本学科にいるせいもあるだろう。ベルリン自由大学はドイツでも屈指のヤポノロギー(日本研究)の拠点である。日々、日本について学ぶ学生や院生のみなさんに接し(日本についての知識や日本語能力には、かなりのばらつきがあるが)、なにがしかの手応えのようなものを感じつつある。

 

 彼らの日本への関心は、何もアニメや漫画ばかりではない。今時のヨーロッパの若い人の日本への関心はサブカル中心だろうという予想は、いい意味で覆されつつある。彼らは日本の歴史や文化、政治や社会、文学や思想に対して、かなりバランスの良い関心を持っているというのが僕の印象だ。

 

同僚と話していても、日本への関心のきっかけは村上春樹であったが、今は日本のポピュリズムに関心があるという人もいた。高校生時代に日本語を学び、今は日本の法思想を研究しているという人もいる。実際、日本研究を専攻する学生の数は、中国研究を専攻する学生にまったく引けを取らない。むしろ多いくらいである。

 

 彼らが素直に日本の社会と歴史に関心を持っていることを、僕は嬉しく思う。でも彼らは同時に、日本社会における問題点についてもよく知っている(戦争やジェンダーの問題など)。単純な日本贔屓では決してない。日本人もまた、「こんなに日本は人気がある」的な変な自慢本と縁を切り、むしろ日本の文化のうち、何が世界の人にとって関心の対象になっているのか、どうすれば日本の「面白さ」を世界に伝えられるか、をもっと虚心坦懐に検討した方がいいのではないか。そう感じている。