2016年

 2016年もあと10分で終わりである。今年はどんな一年だったのか。


 本は久しぶりにたくさん単著(編)を出した一年だった。論文集『政治哲学的考察』、新書『保守主義とは何か』、それから戦後思想のアンソロジー『民主主義と市民社会』。アンソロジーも、100枚の解説とナレーションを含めると、薄手の新書分くらいの量を書いた。少なくとも、今年の前半はよく本を書いた一年だったと言えるだろう。


 4月以降は、大学の総長補佐の仕事に忙殺された。財務から始まって、国際、男女共同参画、人文社会系振興、図書館などを担当。これまで部局のことしか考えていなかったが、大学全体について考えた一年だった。大学全体の予算の透明化、女性の教員、職員、学生がもっと活躍できる大学への試み、世界の中での日本の大学の生き残り、そして問題の図書館。このうち、いくつかの仕事については、批判を含めて、世の話題にしていただいた。いろいろ問題があることは深刻に承知している。それでも一つひとつ事態は少しずついい方向に向かっていると信じている。もう少し、お待ちください。


 大学、特に国立大学をめぐる厳しい状況が明らかになった一年でもあった。人文社会系が問われた年でもあった。今後、状況はますます難しくなるだろう。正直なところ、大学をめぐる下部構造がここまで悪化しているとは、十分に自覚していなかった。来年は日本の国立大学にとって、真骨頂を問われる一年になると思う。ここまで大学が追い込まれてしまったことを、愕然とした思いとともにかみしめている。


 来年は年齢的にも大台だ。いつも思うが、カントは50代になってから三批判書を書いた。自分にとっての『純粋理性批判』をいつか書きたいと、真剣に思っている。学者として、大学人として勝負の年になると思っている。